5月 2012

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私、張り紙を見たんです。

「張り紙を・・・見たんですけど」といきなり電話の中の声が言った。若い女のようだ。しかし僕は張り紙などしていないし、声にも聞き覚えはなかった。僕が戸惑っていると電話の中の女は「張り紙を見たんです」と切迫したような強い声で何度かくり返した。いくらそう言われても「あなたの見ている張り紙」の内容に気の毒だけれど僕は応えようがない。もう一度間違ったところへ電話していることを伝え、それでもラチがあかなければ電話を切ろうとした次の瞬間、電話の中の女はこの事態に突然ピントがあったようだった。消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言うと電話は切れた。しばらく電話を見つめていたけれど、もうかかってこなかった。張り紙には、あんなことやこんなことが書かれていたのだろう。そしてあんなことやこんなことに覚悟して電話をした。でも間違ったところにかけてしまった。それを思うといささかかわいそうになったが、こちらとしてはどうしようもない。皆さん、 ...
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笑いクラゲ

ファミレスでカレーを食べていた。何気なく顔をあげると、前のボックス席にいた4歳くらいの女の子と目が合った。母親はママ友らしき4人でおしゃべりをしていた。女の子は身体をひねって僕を凝視していた。井戸の底を覗き込むように真剣な表情だった。水面に浮いているものが、ゴミなのかそれとも得体の知れない生き物なのか探るように。しかも至近距離である。それは水族館のガラス越しにカワハギと向き合っているようなかんじがした(水族館にカワハギがいるかどうかはあやしい)。否応なく発生するある種の緊張感のようなものを回避するために僕は口だけで「コンニチハ」と笑顔をつくってなごませようと試みた。無反応 だった。無視すればいいのだけえれど、それでは面白くないので睨みつけてみた。女の子相手に数秒間メンチを切るようなかっこうになった。大人げない。実に。でもまあこれで前を向くだろうとおもった。ところが女の子の表情がさっと変わった。ああ。泣くのか。面倒だなとおもったそのとき、破顔した。そしてうれしくて仕方ないといったように全身をくねらせはじめた。それに気づいた母親が「前を向いて!」と女の子の腕を引っ張る。でも僕を見ながらニタニタくねくねをやめない。笑いクラゲという生きものがいたらこんなかんじだろう。僕がレジに向かうあいだも、ずっとニタニタくねくねのまま僕を見ていた。よほど何かが気に入ったのだろう。世の中は不思議でいっぱいだ。コミュニケーションは易くもあり難しくもある。幼子よ、なにがそんな ...
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