「張り紙を・・・見たんですけど」といきなり電話の中の声が言った。若い女のようだ。しかし僕は張り紙などしていないし、声にも聞き覚えはなかった。僕が戸惑っていると電話の中の女は「張り紙を見たんです」と切迫したような強い声で何度かくり返した。いくらそう言われても「あなたの見ている張り紙」の内容に気の毒だけれど僕は応えようがない。もう一度間違ったところへ電話していることを伝え、それでもラチがあかなければ電話を切ろうとした次の瞬間、電話の中の女はこの事態に突然ピントがあったようだった。消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言うと電話は切れた。しばらく電話を見つめていたけれど、もうかかってこなかった。張り紙には、あんなことやこんなことが書かれていたのだろう。そしてあんなことやこんなことに覚悟して電話をした。でも間違ったところにかけてしまった。それを思うといささかかわいそうになったが、こちらとしてはどうしようもない。皆さん、 張り紙を見て電話するときは、くれぐれもおかけ間違いのないようお願いしますね。
あしたも、ぜんぶ、生きようね。おやすみなさい、悪いコたち。

