
韓国は曇天続きだった。ロケ本番は雨の合間をぬっての撮影になった。カメラを回しては止め、止めては回した。そのうち、蝉が鳴きはじめると雨が止むと誰かが言い出した(ホント?)。雨は最近の日本の降り方に似ていた。強く降る。ぴたりと止む。これをくり返した。その間に耳を澄ませてみると、たしかに蝉が鳴き始めると雨は止むようだ。蝉が鳴きはじめる。撮影スタンバイ。蝉が鳴きはじめる。撮影スタンバイ。これで現場はだいぶスムーズになった。蝉くん、お手柄だね、ありがとう。でもそのうち僕は蝉の鳴き方に違和感を覚えはじめた。鳴いていたのは日本の通称「ミンミンゼミ」。誰もが知っているあの蝉だ。ミンミンゼミの鳴き方は「ミーン、ミンミンミンミン」と出アタマをのばしたあとは一定のリズムが続く。しかし韓国ミンミンゼミは少し違っていた。ミーン、ミンミミ、ミンミーミ、ミンミンミ・・・僕にはそう聞こえた。文章ではわかりにくいが、リズムの取り方が違うというか、蝉の鳴き方は韓国語のイントネーションンになんとなく似ている気がした。個体差はあるかもしれない。たまたまそう聞こえたのかもしれない。誰が認めたわけでもありません。僕だけの感覚です。でも、そう聞こえたんだよなぁ。日本の蝉のつもりで耳を傾けていると、傷のあるレコードのように、ちょっとつんのめるようになった。それはある意味楽しい発見だった。異国の蝉は、異国の言葉で鳴いていた。
