焼き鳥屋の狭いカウンターで隣に居合わせたのは、要潤似と加藤ローサ似のカップルでした。20代半ば、もしくは大学生というような若い二人の会話が聞こえてきました。
「このあいだ行った鮨屋は4人で22万だったよ」
と準要潤が自慢気に言うと
「そういう鮨屋さんのスシの字って、ゴンベン?」
と準加藤ローサ。
「そうゴンベン」
自信たっぷりにその要潤似は言いました。ゴンベン? ゴンベンの鮨?寿司?鮓? ンンン???と耳を澄ませていると、加藤ローサ似が
「・・・じゃなかった、サカナヘンだったっけ?」
と言い直しました。すると要潤似があわてたように
「いやゴンベンだよ・・・ん?サカナヘンだっけ?」
言い淀んでいた要潤似は気まずそうにトイレへ立ちました。同時に加藤ローサの携帯が鳴り、それまでの標準語からどっぷりの関西弁に変わって話しはじめました。カウンター席の隣ですからよく聞こえてしまいます。どうやら話相手は友だちらしく、何かの話題で盛り上がっているかんじでした。なにげなく店の奥を見渡すと、トイレの順番待ちをしている要潤似と目が合ってしまいました。と思ったのですが、要潤似が見ていたのは、僕ではなく加藤ローサ似の方でした。ちょっと気になったのは加藤ローサ似を見るその目つきでした。電話をしている加藤ローサ似に明らかに文句がありそうな暗く険しい目つきだったからです。しばらくして要潤似が戻ってきましたが、加藤ローサ似の電話はまだつづいていました。そのあとすぐに電話が終わった様子があり、ちょっと語気を荒げた加藤ローサ似の声が聞こえてきました。
「女ともだちだよ!」
と加藤ローサ。
「×××■□□■××」
よく聞き取れない要潤似の声。
「昔からのずっと仲のいい友だち!」とさらに憤慨する加藤ローサ似に対して
「×××■□□■××」さらによく聞き取れない要潤似の声。
「・・・かかってきたのよ! ・・・切れないよ!」
と加藤ローサ似。
だいたい会話を想像するに、要潤似としては、メンズからかもしれない電話に腹をたてていたわけですね。しかもタイミングが自分がトイレに立ったときだから、余計に勘ぐってしまったようです。自分が席に戻ってきてもやめない話のやりとりを聞いて、あるいは相手が女子だとわかったかもしれませんが、今度は放っておかれるかんじに気分を損ねたのかもしれません。しかしそこは要潤似。素人といえどもかなりおモテるのでしょう。嫉妬めいた小言など、モテるボクにあってはならない。だから周りに聞こえないよう一段と声をひそめていたのだと思います。
一方加藤ローサ似としては、電話の相手は長年の友だちであり、その電話もかかってきたのだから、あなたが疑るような後ろめたいことなどないと一歩もひかない。メンズからすれば、せっかく二人でいるのだから、そんなときくらいは電話は控えるか、彼と一緒だからあとでかけ直すくらい言って電話を切ってほしい。モテモテのメンズのとしてはそれくらいは当たり前で、百歩譲っても、加藤ローサ似の口から彼氏を尊重するような発言がほしかったのかもしれません。
わからないでもありません。若いときはとかく自信がないものです、いくら要潤似であってもそこは変わらないのでしょう。加藤ローサ似からすれば、友だちを悪く言われたような印象だったのだと思います。これは絶対にしてはならないことですが、とくにレディースに対しては、友だちを否定するような発言や蔑むような態度は御法度です。自分が否定されたと同様の反応を示します。このときの加藤ローサ似も例外ではありませんでした。「友だちからの電話に痛くもない腹を探られるような態度は許せない。しかも友だちを中傷するようなことを言うなんて、なんて男なの」という気持ちがいたいほど伝わってきました。
どちらの気持ちもわかるんですよ、要潤似も、加藤ローサ似も。一つ言えることは、この二人は合わない。以上。
