ぢゅー

久しぶりに一人でバーに寄った。銀座では、はじめてのバーだった。一人で入るのは気がひけたけれど、ひどく喉が渇いていて、どこでもいいからウォッカトニックを一杯だけ飲んで帰りたかった。こじんまりとした店だった。L字カウンターがメインで、テーブル席が2つ。僕はカウンターの中央に座り、ウオッカトニックが運ばれてくるのを待っていた。僕のほかにはテーブル席に男性3人がいた。ほどなくしてカップルが入ってきて、カウンターのはじに座った。男性はサラリーマン風の30代半ばのかんじ。とくにまじめそうでも、ふまじめそうでもなく、四角い顔が脂でテカっていた。女性は20代後半のホステス風といったところ。とくに乗り気でもつまらなそうでもなく、ただ一緒についてきたといったかんじだった。男は必死に口説いていた。女は聞こえているのかいないのかまったくわからない表情をしていたけれど、僕にはときどきはっきりと男の声が聞こえた。一杯で帰るつもりが、どうも喉のしめり具合が中途半端で、ウォッカマティーニを追加してしまった。これがいけなかった。僕が、ゆっくりとマティーニをすすっていると、男の告白が聞こえた。そして次の瞬間、僕はマティーニを吹き出すことになる。男は、低い声で言った。「・・・ぢゅーっと、好きでした」

Comment

CAPTCHA


This post doesn't have any comment. Be the first one!

hide comments
ShareTw.Fb.Pin.
...

This is a unique website which will require a more modern browser to work!

Please upgrade today!